グループ展「億光年のドライヴ」にあたって

「億光年のドライヴ」 物と心をつなぐイマジネーション

 心というものが私たちの体内にあるとし、それが身体という器の中に満ちていると仮定しますと、この体の皮膚の表面のすぐ傍まで巨大な宇宙の先端が迫っている事になります。1ミリ先1ナノ向こうに。いや、そもそも肉体を構成している体細胞にしても、煎じ詰めれば全て父母より由来したDNAの設計図を元にして周囲物質を取り込んだ分子集合体。その分子も大昔の星の超新星爆発などで発生した原子で構成されています。つまり私たちの体そのものが宇宙の一部であるといえます。
では人間の心や意識も宇宙の一部なのでしょうか?心というものが脳の物理構造内での電気信号のやり取りによって生み出されているのなら、そうとも言えるかも知れません。そもそもいかなる力が働いて、元は唯の原子、分子であった物が集合したあげく脳を形作り、心を発生させるに至ったのでしょうか?いや逆に心が欲したが故に形が生じたと見るべきなのでしょうか?誰が?原始の海の中に漂っていたアミノ酸が?では物質は願い(イメージ)を持つのでしょうか?形体の先駆けとしてまずイメージがあるとするなら、物体と生物と差とはなんでしょうか?そして「私たち人間とは一体何なのか?」という根本的な疑問。

私たちを構成する血や肉や骨は、遥かな昔、宇宙空間に漂っていた水素や炭素や鉄等のさまざまな分子が組み合わさって出来ています。分子は原子の組み合わせによって出来てい、原子は素粒子という更に微細なエネルギーによって出来ています。この辺まで極小の世界へ降りると物体はもう我々のイメージするカッチリした「物」という概念を超えた在り様をなしているらしいです。物質は「波」であるなど言われるソレです。その素粒子がどこから来たのかというと、最近の研究によれば250億年という途方もない大昔、時間も空間もない(ここからしてすでにイメージが困難)所で生じた大爆発により大量に生まれたといわれます。ビッグバンのあの日よりこのかた、この宇宙の複雑な在り様をみれば、宇宙の性質は進化、高度化にあると見ていいのではないでしょうか。

250億年の果てに宇宙の進化上に革命的な事が起こります。人間という有機体に意識と知能が芽生え、この世の謎の解明にイマジネーションを使用し始めた事です。それはこの宇宙の大きなターニングポイントであると思われます。謎の解明に対して初めにイメージがあり、それを論理によって証明していく。この手法によって宇宙の謎の解明は急速に加速していると言えるのではないでしょうか。
証明は科学者にしか出来ないかもしれませんが、誰にでもイメージをする事は出来きます。例えば五次元の形やビックバン以前の時間や空間のない状態などです。それは時に科学的ではないかもしれません。だが美しい形体や存在することの祝福や、素直なる所作は、ふと気がつけば宇宙の核心に突きうる可能性を大いに秘めているかもしれません。イマジネーションは重力や光や放射線のように、一つのエネルギーであり、それは大きな進化のきっかけとなる起爆剤といえるかもしれません
今回、絵画、立体、映像、音楽などのさまざまな手法で「宇宙」に対する独自の視点、解釈を作品にしてみるという12人の試み。その究極の目的はただ宇宙を模写、トレースするだけではなく、宇宙にも我々をトレースしてもらう事です。観察は観察対象を変化させてしまうといいます。宇宙にとっての最大の驚きは人間の突飛な思考や行動というものではないでしょうか。美しさや形態の新しさ、思想などが真に普遍性を持ちうるなら、それはやがて逆流するように、宇宙の仕組みに還元され新たなカタチを生み出す可能性もゼロではないかもしれません。いや恐らくは徒労に終わるではありましょうが、長大な宇宙の時間と体積の内にしめるはかない存在である私たちが、数億年の進化の果てに宇宙にそれぞれのイメージを示す挑戦。そのこと自体がすでにして痛快ではありますまいか。このあたりに人間とは何か?という問いの答えがあるかもしれません。

今も加速し膨張を続けている宇宙にとっては、微々たると言える試みかもしれませんが、イマジネーションのエネルギーの流入が核心へと到達し、思わぬ反応を起こし、次の宇宙と私達のステージに何らかの変化を起こさん事を願って。
2016年2月 濱中大作 

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